−序章−
「ねえマサムネ、聞いてる?」 昼休み、テキスト学園高等部屋上では何人かの生徒がいくつかのグループをつくって 昼食を広げていた。 フェンスにもたれて座るマサムネとユキもその内の一つだ。 「…ああ済まない。何の話だった?」 眼下に広がるグラウンドに目を向けていたマサムネが振り返った。 「何かおもしろいモノでもあるの?」 何となく不機嫌そうなマサムネの表情を見て、ユキもマサムネが見ていた方を見やり、 すぐに納得した表情を浮かべた。 「そんなにキライなら、無視してればいいのに」 その方向には、取り巻きの中等部の連中を引き連れたナミがいた。 どうやらまたいつもの如く、崇拝者たちを相手に一席ぶっているらしい。 「…別に気になんかしてない」 やはり不機嫌な表情のまま応える。 ユキはクスリと笑った。こういうときのマサムネをつついてはいけない。 長い付き合いで良く知っている。 ここは話題を変えるに限る。 「ねえ、この鶏肉のハンバーグどうかな?つなぎにお豆腐を使ってるんだよ」 「ああ、すごく美味いよ。ユキの作る料理はいつも絶品だな」 「本当?マサムネに喜んでもらえると頑張った甲斐があるよ!」 ユキは無邪気に微笑む。 親元を離れて寮暮らしのマサムネの為に、ユキは欠かさず弁当を作ってくる。 「毎日なんて大変だろう?気が向いたときでいいんだぞ」 それでもユキは笑顔のままで 「それじゃあやっぱり毎日だよ。マサムネが喜んでくれるならね!」 「おまえ…」 その先を言うのはなんだか照れくさい。 言葉を切り、マサムネは微苦笑する。 「なんだよ、最後まで言ってよ」 ユキが期待に満ちた目を目向ける。 「…そろそろ昼休み、終わるぞ」 愛妻弁当を片づけ、マサムネが立ち上がる。 「マサムネぇ!」 あわててユキも続く。 いつもと変わらない一日だった。 その放課後がやってくるまでは…
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