スカートが好き
「何故我輩が、こんな格好をしなければならないのだ。はなはだ遺憾である」 スカスカする足元を気にしながら、本日何度目か分からない嘆きを、猫が口にした。 冬夜はもう返答に飽きたのか、何も答えない。 猫は、その真っ白な体に、ごてごてとレースがたくさんついた、青いメイド服を 着せられていた。テキスト学園中等部クリスマス会の余興で、猫が女装をすること になったのである。誰が言い出したのかは知らないのだが、冬夜が承諾したため、 そういうことになってしまった。 「だいたい、我輩は初等部の生徒であり、中等部とは何の関係もないのである。  こういったバカバカしいことは、中等部の学生だけでやればいいのである。我輩  の意思無く、冬夜が勝手に決めたことも、はなはだ遺憾なのである」 ぶつぶつと何を言っても、冬夜は答えない。 猫は、しばらく抗議していたが、冬夜が何も言わないので、黙り込んだ。 「ほら、髪結んでやるから、こっちへおいで」 冬夜が膝をポンポンと叩くと、猫はしぶしぶと膝にのぼる。 冬夜は、麻雀パイ付の髪ゴムで、猫の長めの髪を二つにわけてくくった。 「ほら、かわいいよ、猫」 「…うれしくないのだ」 初等部のアイドル、ちゆのコスプレは、猫によく似合っていた。少年と言わなければ、 美少女で十分通るだろう。 冬夜は、猫の背中をゆっくりとなでながら、耳元で囁いた。 「後で、たっぷりケーキ食べさせてやるからな」 猫は、その言葉に答えなかったが、耳がピクリとなったのを、冬夜は見逃さなかった。 「嬉しいと耳がピクピクするの、お前の癖だよな」 「勝手に決めつけないでほしいのだ!」 冬夜は、猫をだっこすると、イスから立ち上がった。 そして、大きめの鏡台の前へ猫を連れて行く。 「ほら、かわいいだろ? 猫」 「…我輩には、男が女装して喜ぶヤツの神経が理解できない」 「そうかなぁ。飼い主ながら、猫のかわいらしさにほれぼれするよ」 猫の耳が、ピクリとなった。 「…う、うれしくないのだ」 「へー。うれしくないんだ、猫は」 冬夜は、左腕に猫を座らせるような形で、猫を抱えなおす。 そして、空いた右手で、猫のふとももに手を滑らせた。 「かわいいのになぁ」 「せ、セクハラである!」 どんどんスカートの中身へとのぼっていく手を、猫は必死で抑える。 冬夜は慣れたもので、余裕の笑みを浮かべて、猫の顔をのぞきこんだ。 「猫は、男同士でふともも触るのは、性的嫌がらせだと思ってるんだ」 「う…」 猫の手が緩んだところで、スカートの中の手が、ふとももの内側へとすべった。 「スカートって半ズボンでは限界があることまでできるから、すばらしいと思うん  だけどな、僕は」 「やっ…」 猫は下着の上から中心部に触れられて、高い声を出してしまった。 「そ…そこは、さすがに…男同士でもセクハラなのだ!」 「セクハラ? でも、感じてるじゃん?」 「やっ…冬夜…」 猫の体を知り尽くしている冬夜は、たくみに指でポイントをついてきた。 猫は、体の力がぬけてきて、冬夜の首にすがりつく。 「も…やめて…のだ……冬夜…」 半泣きになった猫は、少し鼻にかかった声で、冬夜に訴える。 「本当にやめていいの?」 冬夜は、あっさりと手をスカートからぬいた。 今まで暖かい腕が入っていたので、妙にスカートの中がスカスカする。 それに、勃ちあがった猫自身が、存在を訴え始めた。 「…冬夜…いじわるなのだ…」 抱き上げられているため、いつもは見上げる冬夜の顔が、すぐ近くにある。 「そろそろいかないと、クリスマス会に間に合わないよ、猫」 「で、でも…」 猫は、いじわるげに微笑む冬夜を、にらみつける。 しかし、猫を床におろそうとしたので、慌てて首にすがりつく手を強めた。 「女装、大好き?」 「…」 「スカート好きでしょ?」 「…好き、じゃないのだ…」 「じゃぁ、さっさと会場行って、仕事して早く帰ろうよ。遅刻したら、みんなに  怒られちゃって、長い時間仕事しなきゃいけなくなるかもしれないよ」 「…で、でも、」 「スカート、嫌いなんでしょ?」 「……」 ちょっと視線をさまよわせた後、猫はフルフル、と横に首をふった。 冬夜は満足そうに猫を鏡台の前のイスに座らせる。 そして、スカートをまくりあげた。 「ほら、スカートのはしっこもってて」 「…」 「下着、もう脱いだ方がいいね。スカートに染みができちゃいそうじゃん」 「……」 下着を抜き取られ、冬夜が顔を近づける。猫自身に息をふきかけられると、耳が ぴくりと震えた。 「けっこう燃えるもんだね。こういう、メイド服ってさ」 「…あっ…」 30分後、なんとか集合時間通りに集合場所へ行くことができた。 猫と冬夜が来たのを見て、わらわらと中等部の生徒が集まってくる。 「猫君、今日はお手伝いしてくれてありがとーね。かわいいねー」 「あっ…」 猫は、女の子に抱き上げられようとして、とっさにスカートのすそを押さえた。 「やだー、本当に女の子になりきっているのね、猫君」 「いや…その……」 「猫は、女装がお気に入りみたいなんだよ」 「ち、ちがうのである!」 猫は、恨めしげに冬夜を見た。 スカートを押さえる手に、自然と力がこもる。 スカートの中に風が入ってきて、スカートがふくらんだ。 猫は、先ほど脱がされ、床に転がったままの下着を恨めしく思った。 スカートの中は、風が直に入るため、とても落ち着かないし、寒い。 「さ、猫。早く行こう」 冬夜が、ニヤリと笑って猫を自分の腕の中に戻した。 クリスマスは、まだ長い。
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