11月20日、ラカトシュとラカトシュアンサンブル演奏『ラカトシュ名演集』

 わははは。なんだこれは。なんだこのヴァイオリンは。上手すぎる。思わず笑ってしまうではないか。げらげらげら。ロビー・ラカトシュはロシア生まれの太っちょなヴァイオリニストだ。おまけにへんてこなヒゲをはやしている。その外観からすぐわかるようにずばりエンターテイナーだ。

収録されているのは、「ハンガリー舞曲」や「剣の舞」といった有名なのからロシア民謡、果ては「だんご三兄弟」といったものまで非常に幅広い。注目すべきはどの曲もアレンジがもの凄くしっかりしていることだ。チェンバロ、ギター、ピアノ、バンジョーなどからなる五人編成のバンドで演奏しているんだけど、ラカトシュの存在感もあってか全然スキがない。ぎっしり音が詰まっている。たいしたもんだ。

 このアルバムで気にいったのは二曲目の「黒い瞳」(ロシア民謡)だ。全編を満たす叙情的なメロディが美しい。途中から徐々にアップテンポになっていき、ものすごく運指が速くなっていくんだけど、ラカトシュは非人間的なテクニックでそれを軽々と弾きこなす。この人、化けモンです。左手(弦を押さえている方)は、頑張ればまあなんとか動かすことはできそうなんだけど、問題は右手だ。ヴァイオリンの音が鳴る仕組みを考えればすぐわかることだけれど、一音一音区切って演奏するためにはそのたびごとに弓の押し引きを交代させなくてはならない。だからこういう速い曲では恐ろしい勢いで右手を痙攣させなければならないんだけど、あのおでぶなラカトシュの姿からは想像できない…。一体どういう仕組みなんだ。ライブがあるなら是非観に行きたいものです。

 他には「だんご三兄弟」のアレンジがイカしてます。お洒落になってる。全体に言えることだけれども、彼の音楽のいいところは決してマジメにならないところだろうと思う。滅茶苦茶なテクニックを持ちながらも、それを「俺はこんだけ弾けるんだ」っていうふうじゃなしに「こんなん出ましたけどプププ」って感じで。 

 ただこのアルバム、ものすごく良いんだけれど、結構はやく飽きてしまった。まあ、仕方ないか。 多分芸術ではない。