第14話



第15話
主への思い
W



「本当だな?では、その言葉に間違いがないか、そのフードを取って証明して見せろ!  これより、フードを取っての戦闘を許可する!」  影鬼の言葉を待ちわびていた4人は、フードに手をかけると、無造作にフードを脱ぎ捨てた。  そして四人がフードを脱ぎ捨てると、太助達は驚愕した。  四人がフードを脱ぎ捨てると、そこには、個人個人見の慣れた姿があったのだ。
「虎獅…」
「龍豹…」
 烈境と風雪を始めとする、四神天を知るものは驚愕していたが、ルーアンだけはもう一人違う人物を見ていた。
「ル…汝麗(ルーリー)…姉様」
 そして最後にもう一人、唯一太助達人間が知っている人物。
「あ…愛原…」
 そう、行方不明と言われていた愛原花織だったのだ。
「虎獅…龍豹…」
 あまりにもショックだった烈境は、ふらふら歩み寄っていく。
「いかん!烈境殿!」
 水明が叫ぶが烈境には聞こえず、顔面に強烈な一撃をくらって吹っ飛んだ。
「はっ!おまえ等が誰のこと言ってんのか知らんが、この姿になるとおまえ等の動きが鈍るというのは本当らしいな!」
 烈境が虎獅と呼んだ人物、殺南は高々とあざ笑う。
 そして最後にもう一人、唯一太助達人間が知っている人物。
「あ…愛原…」
 そう、行方不明と言われていた愛原花織だったのだ。
「ホント、拍子抜けしたわ」
 龍豹と言われた羅雪。
「でも、これでいたぶるのも悪くないわ」
 汝麗と言われた華衣。
「相手がどうなろうと…私達は勝たなくてはいけないんです…」
 愛原と言われた乙冬。
「どうだ?元精霊の3人は。
 3人は、精界襲撃の際、ほとんど無傷の死体を持ってきたのだが、悪くないだろ?」
「無傷…だと…?」
 虎獅…殺南に吹っ飛ばされた烈境が、影鬼の発言に疑問する。
「あいつらは、おまえ達が襲撃した時、いの一番で戦いに挑み、多くの敵を倒し、力尽きたと聞いた!
 それが無傷だと?!」
 烈境は再び紅蓮の鍵爪を纏い、影鬼に向かっていった。
「確かに、多くの雑魚を倒したようだが、奴らは心の影を見せられたらすぐに発狂し、息絶えたぞ?」
 烈境は、悪魔の微笑に激怒し、影鬼へと攻撃を仕掛けるが
「行かさん!」
 殺南が冥武、黒負のクナイを使い、烈境の攻撃を止める。
「くっ!」
「氷天舞技・陸式・氷塊雨!」
 舌打ちした烈境の後ろから、風雪の怒声が聞こえた。
「彼女たちは『心』を鍛える精霊だったのよ?!
 それなのに、心の崩壊で死んだ?ざけんじゃないわよ!」
 風雪の攻撃は、上空から大粒の氷の塊を、雨のように降らす技だったが、今回は一つ一つが影鬼めがけ尖った塊だった。
 が
「気流壁っ」
 華衣が影鬼の上空(自分の上空とも言う)に、乱気流の壁を発生させ、落下してきた氷塊を吹き飛ばす。
「そんなもの、俺にとっては大した障害ではない」
 坦々と述べる影鬼。
「そ…そんなの…納得できるわけ無いじゃない!」
「しかし現に、華衣の心乱によって、おまえらの仲間は、精神に異常を来している。
 その上、おまえらの言う3人は、俺達の手によって、殺南達の依り代になっている」
 影鬼の発言に皆は婁襄がいないことに気づき、辺りを見回すが
(ダメです、婁襄さんは、暫くあのままです)
 奇妙な繭を見つけた太助達に、金欧が言う。
「どういうことだ?!」
「婁襄は心乱によって、深層世界の『何か』に触発されて、あんな状態になったのよ」
 続いてルーアンが説明する。
「大丈夫なのか?」
「分からないわ、金欧の呼びかけにも答え無かったから、聞こえないのか、はたまた深層世界の奥深くに潜ったか」
 聞いたキリュウ、ルーアンはそろって舌打ちする。
(とにかく、早く婁襄さんのことを調べた方がいいです。
 たぶん、あの状態が長く続くのは危険です)
「しかし…」
 金欧の切羽詰まった説明に、息をのみ、太助達は影鬼達を見る。
「あいつらが、たやすくやられてくれるとは、思わんな」
 気づいてみれば、烈境や風雪、ルーアン等は、先程のショックから立ち直りつつあるようだ。
 いや、立ち直っている風に見えるだけかもしれない。
 その証拠に、普通に言葉発してはいるが、目が虚ろで、現実を直視していない様子がある。
 やはり、ショックが大きかったのだろう。
「虎獅…」
「龍豹…」

「おい烈境!」
「ん?」
 星神宮の一画の通路を歩いていた烈境に、一人の青年が、小走りで話しかけてきた。
「なんだ、虎獅か、何のようだ?式の用意は済んだのか?」
「んなもん後々!玄武と青龍のお姉さん方が到着したらしいから、見に行こうぜ!」
「んなもん式で見れるだろうが」
 元気溌剌に言う虎獅に、烈境は少々呆れ気味に言う。
「それまで待てねぇよ!それにホントはおまえも見たいんだろ?」
「う゛…」
 虎獅に図星を突かれ、言葉が詰まる烈境。
「そうだよな、なんせ玄武山と青龍河の実力者で、美人と聞いて見てみたくない奴なんていないよな?」
 虎獅はニタニタと、烈境をからかうように話す。
「……見たくないって言ったら嘘になるが…俺は後でも―」
「あのー、すいません」
 烈境が言い終わる前に、一人の女性が二人に話しかけてきた。
「星神の間に行きたいのですが、どちらかご存知ですか?」
 丁寧な口調で訪ねる女性。
「あ、俺達も今から行くとこだけど、今日は式の予定が入ってるから星神天様への申し立ては、今日は受け付けてないけど?」
 女性の質問に虎獅が答える
「あ、いえ、私はその式に参加するので、一度見ておきたかったのですが」
「え?!……もしかして…玄武山か青龍河から来た人?」
「はい。玄武山から来た風雪と申します」
「マジで?!実は俺達も今日式に参加するんだ!」
 虎獅の発言に、今度は風雪が答える。
「え?!そうなんですか?!じゃあ同期になるわけですね。宜しくお願いします!」
「ああ、こっちこそ宜しく。
 俺は白虎原から来た虎獅って言うんだ。
 んで、こっちが朱雀池の…烈境?」
 虎獅が、烈境を紹介しようと、烈境を見ると、風雪を見たままぼーっとしていた。
「あの…どうかしましたか?」
 風雪も不思議に思って、烈境に尋ねると
「ッ?!イヤ!なんでもない!こっちこそ宜しく!」
 絵的に、烈境を下から覗き込むように見上げる風雪。
 しかし、元々の身長差で烈境が上から見下ろし、風雪が下から見上げていたのだが、烈境は顔を見せないように、下に俯くが、全く顔が隠されていない。
「でも、アレ持ってる?水晶鍵。
 アレ持ってないと入れないよ?」
 見かねた虎獅が、助け船を出すつもりで言うと
「もちろん持ってますよ!えっと…」
 ゴソゴソと、胸元を探るが
「あ…あれ…?」
 風雪は困惑した顔で、他のポケットを探す。
 やがて、全てのポケットを探し終えると一言。
「……無い……忘れちゃった?!」
「マジ?でもアレって個人認識証も兼ねてるから、俺達の水晶鍵じゃ星神の間には入れないぜ?」
「そうなんですよね…はぁ、仕方ない取りに戻ります」
「でも星神の間はまだ分からないんだろ?だったら付いて行こうか?」
「いえ大丈夫です。今度は、水晶鍵の案内図を参考にしますから」
「そう?ならいいんだけど」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
 ではまた式で」
「ああ」
「…じゃ」
 風雪はお辞儀をして去って行った。
 残るはむさ苦しい男が二人。
 虎獅は、風雪を見送ると一言。
「……惚れたな」
「っ!!ち、違っ!!」
「いいっていいって、隠すなよ。
 ま、確かにかわいかったから無理もないな」
 虎獅にニヤニヤと言われ、赤面する烈境。
「ま、応援してやるから、頑張りな。
 これからは長い付き合いになりそうだから、しっかりな」
 虎獅は大声を出して笑い、烈境の背中をバシバシと叩いた。

「さてと、水晶鍵も持ったし、いざ星神の間へ!」
 烈境、虎獅と分かれた風雪は、自分に与えられた自室に戻り、水晶鍵を持ち、今一度、星神の間へ行こうと、張り切って部屋を出た。
 とたん―
「きゃっ!」
 部屋を一歩出る前に、扉の前にいた誰かとぶつかってしまった。
「いたたたっ」
 両者お互いに尻餅をつく。
「ごめん!大丈夫?!」
「いつつっ、あ、はい大丈夫です」
「ごめんね、ちょっと会いに来たら、ドジっちゃって」
 風雪はぶつかってきた女性を見た。
「え、私に?」
「あなた、玄武山の人でしょ?私、青龍河の龍豹。
 あと一人女がいるって言うから、会いに来たの」
「え、あなたが?」
「そ。後で野郎も見に行こうと思うんだけど行く?」
「朱雀と白虎の人ですか?さっき会いましたよ?」
「マジ?どうだった?カッコよかった?」
「カッコいいかは分かりませんが、いい人たちでしたよ」
 にこやかに言う風雪。
「甘いわね。男はカッコで決まるのよ!」
 拳を握りしめ、力説する龍豹。
「え…」
 あまりにも龍豹が力説するので、風雪は固まってしまった。
「いくら性格がよくったって、不細工だったらイヤでしょ?」
「……………」
 風雪は言葉が出なかった。
「ま、とにかくそれは置いといて、あなたはどこへ行こうとしてたの?」
「え?あ、私は今から星神の間に行こうとしてたんだけど…
 確か二人も行くと言っていたけど…」
「マジ?じゃあ行こう!それ行こう!」
 龍豹は、風雪の手を取り、歩きだした。
 そして、風雪は龍豹に手を引かれながら思った。
(この人やあの人達なら、これからうまくやっていけそう…)
 そして、風雪は龍豹に握られた手を握り返す。
(これから、よろしくお願いしますっ!)

「虎獅…龍豹…なんで…なんで!なんであなた達が敵になってるのよ!」
 風雪は怒りで手を強く握り締め、血を滴らせながら言う。
「だから、何度も言ってんじゃん。
 この身体は確かにおまえらの知り合い肉体かもしれないが、今の精神体は十二冥帝の殺南と羅雪なんだよ」
 馬鹿にするように、なおかつ、相手を見下すようなセリフで言う殺南。
「あの二人が、何を見て発狂死したか教えてやろうか?」
 怒りを逆撫でしそうな声で言う影鬼。
「あいつらのもっとも大切な者が、敵として自分に攻撃してくるというものだった。
 アレはなかなか面白かったぞ。敵を目の前にした奴らの顔は――」
 その瞬間、大気が震え、凍り付く。
 気温はみるみる下がり、校庭の地面に霜柱ができる。
「なっ…!」
「これは…まさか……っ!」
「ああ、氷帝だ…炎帝との夫婦だった…」
 烈境の言葉を、翔子が続ける。
 氷帝の気に触れ、微かな記憶を取り戻したようだ。
「絶対零度の星天使、十二星帝が氷帝、令香の後継者、癒身氷天 風雪。ここに覚醒!!」
 覚醒した風雪は、背中に一対の氷の翼を背負っていた。
「あれは…?」
「あれは…氷帝の闘う時の戦闘スタイル…あの翼から…星天使と…呼ば…れた…」
「シャオ?!」
 太助の問いに答えたのはシャオだった。
 しかも、なぜか呼吸が激しく、頭を抑えている。
「シャオ!シャオ!」
 太助は何度も声をかけるが、シャオは反応しない。
 太助はシャオがこの様子では、同じ精霊であるルーアンとキリュウも同じ状態ではないかと思い、二人を見やるが、至って冷静に現状を見ていた。
 いや、ルーアンは何も見ていない。
 虚ろな目で違う何かを見ていた。

「姉様!」
 簡素な服装なルーアンが、星神宮の一画を走っていた。
「あら、ルーアン。十二天への昇星が決まったのよね。おめでとう。式はいつだっけ?」
 柔らかい微笑みで、ルーアンの言いたいことを先に言う。
「あぁもう!知ってたの?姉様は火天でしょ?今回抜けたのが、日天、月天、地天だから、私は日天がいいわ」
 ルーアンの言葉に汝麗は、少し驚いた。
「あら?あなた聞いてないの……?そう、じゃあ式の当日まで知るのはお預けね」
「え?!姉様は知ってるの?!教えてよ!」
「だぁめ、後で知った方が、私が楽しめるから」
 ルーアンのねだりを、柔らかい微笑みで一蹴する。
「ズルいわよ姉様!いくら主を楽しめることが役目の喜楽火天だとしても、自分が楽しんでどうするのよ!」
「あら、あなたがなりたい慶幸日天だって、主を幸せにするのが役目だけど、ルーアンは幸せにならなくてもいいの?」
「う゛っ……そ、そりゃあ幸せになりたくないって言ったら嘘になるけど……それが役目なら仕方がないわよ」
 その瞬間、汝麗は哀しい眼をして、ルーアンの頬を撫でる。
「ルーアン…そんな哀しいこと言わないで、これから十二天の精霊として生きていくあなたは、今でも寿命が気の遠くなるほど長いのに、寿命での不死の肉体を持つことは、本当に大変なこと。
 人間も不老不死の肉体が欲しいと言うけれど、それを持つことは、出会うことで、必ず出会った人の死を見ること。
 それは役目によって様々だけど、守護月天は今言ったようなことが必ずある。
 万難地天も役目柄孤独に陥ることが多いわ。
 だけどねルーアン、そんな不死の肉体でも唯一耐えることができる方法があるの。
 それは、幸せなことを考え、想い、楽しいことを思い浮かべること。
 それがあるから今、十二天の役目を負っている精霊は生きていけるの。
 だからルーアン。今から十二天の精霊として生きていくのに、そんな哀しいこと言わないで」
 汝麗の目から、涙が滴り落ちる。
「姉様……ごめんなさい…」
「解ってくれればいいのよ。でもその事は胸の奥に留めて置いてね」
 汝麗は涙を拭き、ルーアンに満点の微笑みで言う。
「じゃあ今日は、ルーアンの昇星記念に、腕をふるって、美味しい物を作るわね!」
「ホント?!姉様の料理は美味しいから大好き!」
「そのかわり、十二天に就任したら、マジメに役目を果たすのよ?」
「分かってるわよ。そのかわり姉様もしっかりするのよ?」
「あら、そんなことを言うお口はこの大きなお口かしら?」
 汝麗は、ルーアンの頬を、摘んで引っ張ったり、掌で押しつぶしたりして変顔を作る。
「へぇはま、ご、ごめんなひゃい…(姉様、ご、ごめんなさい…)」
「ん。分かればよろしい」
 言って汝麗は、悪戯(いたずら)な笑顔で笑う。
「もうっ。じゃあ、姉様にとって、幸せなことや楽しいことってなぁに?」
「私?私はねぇ…」
 汝麗は満点の笑みで
「あなたが幸せで楽しく暮らしている様を思い浮かべることよ」
「姉様…」
「さっ!残りの候補者に会いに行くわよ!」
「え?!今?!」
「そうよ。あなたも会いたいでしょ?」
「…………えぇ!行きましょう!」

「…姉様…」
「氷帝翼技・権天使・凍翼!」
 ルーアンが物思いにふけってる間、氷帝として覚醒した風雪は、攻撃を繰り返していた。
「氷帝翼技・大天使・豪氷!」
 風雪の翼から放たれた鋭い氷の羽根と、同じく翼から放たれた猛吹雪が、影鬼達を襲う。
「これはこれは、予想外の人が覚醒したっすね」
 突如、フードを被った男が、風雪の放った攻撃と、影鬼達の間に現れた。
「華衣さん、そこから仰角60°やや右目の羽根を狙って、その後すぐにそこに向かって螺旋砲を撃って下さい」
 華衣は言われるままに、反論をせず、突如現れた男の指示に従い、風雪の凍翼に攻撃する。
 しかも、華衣は迫り来る凍翼と豪氷の攻撃に、身じろぎせず男の言った場所に華衣は、螺旋砲――気を何重もの帯にし、それをねじるように放つ技を放つ。
 と、影鬼達に真っ直ぐ向かってきた凍翼と豪氷は、華衣の放った螺旋砲を中心に、影鬼達を避けるかのように飛び散っていく。
「な……」
 凍翼と豪氷を放った風雪は驚きを隠せない。
 いくら覚醒したてで、下級天使の大天使、権天使しか使えなくても、ある程度の威力はある。
 しかもその攻撃を喰らう前にかわした者など今まで居なかったのだから。
 天使には九つの位があり、上から熾天使・智天使・座天使・主天使・力天使・能天使・権天使・大天使・天使である。
 覚醒したてなので、上級、中級の天使の技は使えないが、ただの天使の技でも、相当の威力がある。
 しかもそれを、一回りも二回りも上回る攻撃を、軽く凌がれたのだ。
「まったく、あんたはなんであんな事が解るのよ」
「あの程度のことが分からないと智帝は名のれないっすよ」
「―っ!!」
 風雪を始め、その場にいた者は新たに現れた男がやはり十二冥帝であることに驚くが―
「姉様ッ!」
 ルーアンが、今の状況を無視し、華衣―汝麗に問いかける。
「姉様にとって…悠久の時を生きるために必要なものって何?」
 今のルーアンにとって、この問いは、この戦いをするに当たって大切なことである。なぜなら――
「……あなた、ルーアンって言ったわね」
 華衣はルーアンの問いに答えず、違うことを話始める。
「この女の記憶にあなたのことが鮮明に残ってるわ」
 華衣の言葉を、ただ沈黙で聞くルーアン。
「確かにこの女はあなたの姉で、この女もあなたのことを大事に想っていたのは確かね。でも……」
 そこで華衣は言葉を切り、いかにも楽しそうに
「私はあなたの事なんてなんとも想っていないわ。
 強いて言えば、早く死ねばいいと思ってるわね。
 最初の質問に答えるけど、私の生き甲斐は、人を殺める瞬間の快楽かしら」
「そう…」
 その瞬間、またも空気が変わる。
 今までは風雪の覚醒によって、大気が冷たかったのだが、今はそれが失せ、本来の春の陽気が戻ってきた。
「さっきあなたの姿を見て、姉様に逢えた気がした。
 でも……それは姉様の姿をした悪魔だと今分かった!」
 ルーアンの身体から、凄まじい精霊力に似た気が流れるのを感じる。
 いや、それは烈境、風雪同様、精霊として役目を負っていた時の気と、新たに覚醒した気が同じだったにすぎない。
 そう、その力とは
「十二星帝、日帝、皐の後継者!慶幸日天 ルーアン!
 陽光の光の中、姉の幻影を撃つため、ここに覚醒!!」
「あらあら、あなたに用があるのは私なんだけどね」
 覚醒したルーアンの後ろに、いつの間にかに羅雪が現れた。
「私は龍豹様の身体を使ってるあなたも気に入らないから、今度相手をしてあげるわ。
 だから大人しくしてなさい」
 ルーアンはそう言い放ち、華衣へと向かっていく。
「喰らいなさい!覚醒し、力が増した力を!陽光せ―!」
突如、ルーアンは走り出した体が、何か上から圧力をかけられた様に感じ、動きを止めた。
「ね?用事があるのは私なの。だから私を無視しないでくれる?」
 またしても羅雪はルーアンの後ろを取り、甘い笑みを浮かべ、挑発する。
「……いいわ、先に邪魔な虫を取っておいた方がいいから…ね!」
 かけ声と同時にルーアンは後ろ回し蹴りで羅雪の頭部を蹴る。
 羅雪はそれを上体を反り、かわす。
 しかしルーアンは蹴りあげた脚を、空を切らさず、一時停止。そこから一気に羅雪めがけて振り落とす。
 さらに羅雪は、ルーアンの動きをよんでいたかのように、後ろへバック転しながらかわす。
「……よく飛ぶ虫ね」
「それはお互い様」
 ルーアンの嘲笑を打って返す羅雪。
「じゃ、前座はこれくらいにして、本番いきますか」
 ここから、ルーアンにとって、姉の仇を取るための戦いが始まった。

「ルーアン!」
 太助がルーアンの身を案じ呼びかけるが
「無駄だ。日天は戦いに集中している。無事を祈るしかない」
 烈境が言う。
「でも!一人より人数が多い方が…!」
  しかし尚も太助ルーアンを助けに行こうとする。
「主!…今助けに行ったら日天に怒られるぞ。
 それに月天をそのままにしておくつもりか?」
「――ッ!」
 そう。シャオは先程と変わらず、荒い息づかいをし、激しい頭痛に襲われているのだ。
「それにあいつ等も黙っていないだろう」
 鋭い威圧で殺南達を睨む烈境。
 あちらは5人、こちらは14人。 頭数なら勝っている。
 しかし―
(はっきり言って、こちらの戦闘威力と大差ない、か)
 そう、シャオとキリュウを始め、覚醒済みだが目立った能力を発揮しない太助、悪いが五龍天と雷電姉弟は、まるっきり戦力外でないにしろ、大したことは期待できない。
 いや風雪もすでに新たに現れた智帝と名乗るものと臨戦体勢になっているので期待できない。
(とするとこちらは3人か…)
 と―
(烈境殿)
 キリュウが耳打ちするかのような小声で烈境に話しかけてきた。
(地天…?)
(あの魔帝の殺南とやら、私に任せてもらってはいけないだろうか?)
(なに?)
(私はあいつが許せない!)
(――ッ!……………そうか、おまえは確か)
 まだ昔、星宿界に住み、シャオ達まだ精霊としての役目を負っていなかった時。

「キリュウ!」
 星神宮の中庭を汗だくの水明が走っている。
「いい加減逃げるのを止めて、今日の課題の修練に行くんじゃ!」
 水明はそこで足を止め、中庭のどこかにいると思われるキリュウに呼びかけた。
「確かに今日の修練はお前のことだ。相手のことを考えると出来ないのだろう。しかし―」

 ピッ

「たっ」

 ピピッ、ピッ、ピピピピピピピッ
「あたたたたっ!」
 中庭の水明の周りにある木から木の実やら何やらが水明めがけ投げつけられる。
「いたたたたっ」
 水明はこりゃたまらんと言うように、せっせこと逃げていった。
 それを、水明に攻撃をしかけた木の中の一本の上に隠れていた赤髪の女の子は、ゆっくりと見送った。
 木々達も、水明がいなくなると攻撃を止め、また沈黙の木と化した。
 赤髪の子、キリュウは今の姿よりもう一回り幼く見える。
 そして、キリュウがなぜ水明から逃げていたかというと、今日の修練を途中で逃げ出したのだ。
 今まではふつうに修練をこなしてきたのだが、今日の修練だけはやることを拒んだのだ。
 その内容は――
「ん、んうーー!」
 キリュウは背後での奇妙な声にビクつき、背後を振り返る。
 振り返ると、一人の男が木の上に寝転がった状態で背伸びをしていた。
「ったく、せっかく気持ちよく寝てたのに、水爺の声で起きちまったぜ…ん?」
 男は欠伸混じりの背伸びを終えると、正面に縮こまっている少女を見つけた。
「………87点。将来が楽しみだぞ。お茶はその時な」
「………………」
 キリュウは勝手に人の顔を見て、勝手に喋りだした男に見覚えがあったが、急に話し出されてしまったので唖然としてしまった。
「………様」
「あ?」
「…虎獅様」
「あぁ、俺のこと知ってるのか。ま、ここに住んでてオレらのことを知らない方がおかしいか」
 苦笑気味に話す虎獅。
「そういやお前何でこんなところにいるんだ?」
「――ッ!……」
 キリュウは虎獅の質問に体をビクつかせたと思うと、下を向き、沈黙してしまった。
「あ〜、言いたくないんだろうけど、悪い、大体分かる」
 キリュウは体を跳ねることこそしなかったが、ゆっくりと虎獅の顔を見上げる。
「今日の土木科の修練は衰えた木からの生命力吸収だったな。
 お前はその衰退した木から生命力を吸い出すことは、その木を死滅させることだから出来なかったんだろ」
「……………」
 キリュウは答えない。
しかし、虎獅はそれを肯定と受け取ったのか、そのまま話しを続ける。
「しかしな、お前はその木の『声』を聞いたうえで逃げてきたのか?」
「…『声』?」
 虎獅は自分が寝そべっていた木の枝を優しく撫でながら言った。
「そうだ『声』だ。鉄や金属、自然界の火や水からも『声』は聞こえるはずだ。
 もちろん、木々や草花にも『声』はある。
 しかしそれは火の『声』は聞こえても、水の『声』は聞こえないというのはザラだがな。
 もし話しをして、それでも修練をしたくなかったら、またここに来い。また話しをしてやる」
 虎獅は、キリュウの心の底を見透かす様な瞳で話しをしていたが、言い終わりはさらなる慈悲の念が込められたように見えた。
 一方キリュウは少しの間迷った。
 あの『声』はいつもたまたま聞こえる物であって、自分の力で聞くことが出来るかどうか不安だったのだ。
「なにも難しいことじゃない。その聞きたい『声』を発しているもの理解し、想えばいい」
「想う…」
「そうだ。お前の素直な気持ちがあれば聞こえる筈だ」
 キリュウはその言葉を聞き暫し、何かを決めたかのような瞳で虎獅を一目見て、御辞儀をしたかと思うと、無言で木から飛び降り、かけていった。
「……ふぅ、慣れないもんはするもんじゃないな。なぁ、烈境?」
 頭の後ろで手を組み、上を見た状態で目を閉じた虎獅は、いつの間にか木の根本に寄りかかっている烈境に声をかけた。
「珍しいな、お前が説教をするなんて」
「まぁな、だがお前はあいつが誰だが知ってたか?」
「?…いや…」
「『アイツ』の妹だよ。今は水爺が面倒見てる」
「アイツ……アイツか!そうか…彼女が…」
「アイツの妹だ。危険かもしれないが、今は可愛いもんだよ」
「……危険にならないことを祈るだけか…」
「そういうことだな……ん、そういえばお前、俺に用事があったんじゃないか?」
 今までシリアスな雰囲気を吹っ飛ばし、マヌケな顔で烈境に聞く。
「ああ、『例の彼女』の話しだ。星神天様直々の収集だ。遅刻させないように俺が来た」
「あの娘か…精霊にもなっていないのに、人間界に降りて人間の男と暮らそうとした…」
「そうだ、いまからそれの話しを、星神天様、婁襄様四神天で話し合う。……行くぞ」
「あいよっと」
 烈境が寄りかかっていた木を離れ、歩きながら虎獅に声をかけると、木から飛び降りる。
「ま、頑張りなっ」
 そう言うと、先に歩きだしていた烈境を追いかけだした。

(あの後、地天のあの時の詳細表を見たが、やはり虎獅との話しの後から伸びている。
 虎獅も、たまには説教してみるのものだな)
「……勝算はあるのか?」
 怒りのオーラで、吐き捨てるように言ったキリュウに聞いた。
 キリュウはその質問に魔性の様な微笑みで右手を握った状態で烈境の前に差し出す。
 すると
「――ッ!……地天…お前、いつの間に…」
「烈境殿、頼む」
 キリュウは烈境の質問に答えず、もう一度頼む。
「……わかった。ただし、補佐役に水明と土架をつける。文句はないな?」
 キリュウは戦わせてくれるのなら何でもいいと、即頷いた。
「氷天舞技・参式・氷分身!弐式・氷蛇!」
「行け!」
 風雪の攻撃と同時に、烈境が叫ぶ。
「水明!土架!地天の補佐を頼む!」
 水明と土架は、突然の号令にも関わらず即座に駆け出す。
 突然のタイムロスは無しである。
 風雪の攻撃は、氷分身での分身、その上での氷蛇を繰り出す。
 キリュウは烈境の掛け声で駆けだし、風雪達の氷蛇をぬうように殺南に接近する。
「殺南っち」
「やめろ」
「今来る女の子、次が来るまでの暇つぶしにして下さい。あちらも殺南っちに用がある見たいっすから」
「……分かった」
「んでもって今度は乙冬っち」
「は、はい!」
 男は今まで事の成り行きを見ていた乙冬に言う。
 乙冬は突然話しかけられたので、いつも以上に驚く。
「そんなに驚かなくても…ま、全方障壁お願いします。フルパワーで」
「は、はい!全方障壁!」
 乙冬が唱えると、乙冬達4人を囲むようにドーム型の障壁が現れた。
 風雪達の放った氷蛇は、乙冬達を襲う寸前に障壁に阻まれ、砕け散った。
 しかしキリュウにはそれで十分だった。
 乙冬は、氷蛇を凌いだことで油断し、全方障壁を解いてしまったのだ。
「乙冬っち!まだ解いちゃ……!」
「え?」
 キリュウは呆けている乙冬の脇をすり抜け、殺南に当て身を喰らわす。
「ぐっ!」
「殺南さん!」
 乙冬はキリュウによって飛ばされた殺南を案じ叫ぶ。
「大丈夫っすよ乙冬っち。それにこっちも人の心配してる場合じゃなくなったっすからね」
 男は殺南のことを気にせず毅然と太助達の方を見やる。
「俺は氷帝と何人か相手にしますが、乙冬っちと華衣姉も何人か相手してもらえますか?」
「え……三人であの人数ですか?」
「いや、今度は影鬼兄にも手伝ってもらわないとキツイっすけど…」
 言って男は影鬼を見上げる。
「麒刀の作戦に俺が必要なら加勢しよう」
 影鬼は麒刀の頼みを聞き、地上に降りてきた。
「風雪。お前に神崎(姉)をつける。いいな?」
 風雪は背後からの烈境の指示に首を縦に振った。
「主はここで月天を見ててくれ」
 その言葉に太助は無言で頷く。
「よし!殺南と羅雪を地天と日天が押さえている間に、こっちもやるぞ!俺は影鬼を打つ!火月とデンは俺について来い!華衣は山野辺と金欧!乙冬は遠藤と木蘭だ!
 行くぞ!」



反省文
はい!かなり間が空いてしまいましたが「主への思いW」を読んで頂きありがとうございます!
この話ではキリュウやルーアンの過去などが明らかになっていますが、多少無理があると思っています。
細かい設定などガサツで、読者の方には不快な思いをしてらっしゃる方も多いと思います。
まずその点を謝罪しておきます。

さて、今回いつものように座談会を開かず、このような反省文で皆様に挨拶したことには訳があります。
じつは、今私はとてもつもなくスランプに陥っております。
スランプといっても、小説は書けるんです。書けるんですが、ネットの小説が書けなくなってしまいました。
私は最近、電撃文庫系列の文庫小説を貪る様に読みふけったんですが、読むのを重ねるうちに、今書いている小説の描写に自信が無くなってきました。
そのことを考えるともう開き直りません。
どんどん坩堝にはまっていきます。
しかし私はそこで諦めません!
「過去の記憶」とは別の小説を立ち上げ、そこで違う表現の仕方などをして、少し修行のような物をしてみたいと思います。
ちょうど、秘密の間にはギャグを中心しようとしていたGSOMが眠っております。(書き直すとギャグじゃなくなりますが)
それに、完璧に私のオリジナル小説を、少しずつではありますが、書き始めました。
そのことをきっかけに少し過去の記憶から少し離れたいと思います。
このことを皆様は「逃げ」だと思う方がいるでしょう。
そう、これは逃げなんです。
しかし!このまま逃げた形では私も後味悪いです(過去にも同じ経験があるので)
だからこれでいい!と私が判断したときは、過去の記憶の続きを書こうと思います。
それまで少し間は空きますが、それまでこの星宿界を見放さず、応援してくださると感謝いたします。

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